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既存不適格は悪役レスラー?その真偽はいかに!

中古物件を探した経験の有る人であれば、「既存不適格」という言葉を耳にされたことがあるのではないでしょうか。あるいは古民家に関わるニュースでも耳にします。この何となく聞いたことがあるけど、実態はよく分からないという既存不適格建築物とは、いったい何なのかについて詳しくみていきましょう。

 

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既存不適格建築物とは何か

既存不適格建築物とは、 建築基準法が施行される以前や各種の都市計画制限が定まる以前から存在していた建築物で、法規制や都市計画制限が後から決定されたために、結果として現行法規に不適合になったものを指します。 

そもそも建築基準法は、「状態規定」といって、あらゆる建築物は常に最新の規定に適合した状態に保たなければいけません。それでは後から制限が決まって不適合になった条文はどうなのかというと、それは法の適用を猶予されているに過ぎないのです。いわばモラトリアムです。

建築基準法にはこのように規定されています。

第3条2項  この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。

往年のプロレスファンの方ならイメージ できると思いますが、ちょうど試合中にリングのロープを掴むようなものです。プロレスの場合は、ロープを掴むことによって試合が一時中断しますが、建築においても、法の適用が「停止」されます。ただ、プロレスとの大きな違いは、一度ロープを離すと(適合建築物になると)もう次にロープを掴んでも、試合は 中断しないという点にあります。

 建築確認申請が不要でも既存不適格は消滅する

具体的に説明しましょう。ある古い木造住宅があるとします。指定建ぺい率60%の地域に建つこの建物の建ぺい率は現在70%あります。ただし建ぺい率が指定される以前から建っていたために既存不適格建築物として存在しています。 

この家が老朽化したということで修繕工事に入りました。ところが予想以上に構造材が腐食していたために、屋根を解体して、柱と梁の3分の2を取り換えることにしました。ただし建物の大きさは、元の大きさとまったく同じです。 

この行為は「大規模な修繕」という扱いになります。木造2階建ての200平方メートル以下の建物であれば、大規模な修繕を行っても建築確認申請は不要です。 

この建築確認申請が不要であるがために、よく勘違いする人が現れるのです。つまり建「築確認申請が不要なのだから現行法規は適用されない」と堂々と主張する人までいます。ところが、これが大きな間違いなのです。その根拠は次のとおりです。 

第3条3項 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、適用しない。

つまり次の各号に該当する建築物は、前項の規定、つまり既存不適格の扱いを適用しないと書いているのです。その各号のひとつに次の法文があります。 

第3条3項3号 工事の着手がこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の後である増築、改築、移転、大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物又はその敷地

 ここに増築はもちろん大規模な修繕も記載されていますから、大規模な修繕を行った時点で、建ぺい率60%の住宅に規模を縮小しないといけないのです。 

 

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 既存不適格と既得権はまったく違う 

既存不適格と既得権の違いはどこにあるのでしょうか。

2014年にエレベーターの面積に関する改正法が施行されました。それまでエレベーターの面積は各階カウントされていたものを1階部分のみ算入すればいいとなったのです。

ホテルなどでは、容積率の既存不適格建築物がいくつかありますが、この改正法によって、面積が減るために、その減った面積分だけ倉庫を増築できないだろうかと相談を受けたことがあります。 

これが「既得権」の発想です。つまり指定容積率400%の地域に420%の建っているので、420%まで建てられる権利をこのホテルは有しているのだと考えたのです。 

しかし答は「NO」です。面積の変動がどうであれ、倉庫を建てた時点でそれは「増築」の扱いになるのです。先ほど示した、第3条3項3号の中にも「増築」の文言がありました。つまり増築をすれば、既存不適格は消滅して、ただちに現行法規に適合させるという義務が発生するのです。 

既存不適格建築物は悪役レスラー説!

それでは、既存不適格建築物というのは、プロレスに喩えれば悪役レスラーなのでしょうか。いいえ違います。それどころか、ルー・テーズカール・ゴッチのような往年の名レスラーといっても差し支えありません。 

新築時には合法的だったのに、途中でルールが変わったために適応できなくなり試合を休んでいるに過ぎません。ロープを掴めば試合中断としているルールを含めてルールそのものなのですから、堂々と胸を張って立っていればいいのです。 

いくら試合を休んでいてもヤジが飛んでくることもありません。なにしろ観客は行政マン達なのですから。彼らは試合の勝敗には全く関心がありません。彼らが欲しているのは、いかにルールを守って試合を進行しているかに尽きます。そこを逸脱しなければ満足げに試合を見守るのです。

まとめ

増築、改築、大規模の修繕、大規模の模様替をした場合には、既存不適格の扱いはただちに消滅します。いわばロープがすべて撤去されたリングで戦うようなものなのです。

あるいは、コアなプロレスファンの方なら、大仁田選手の金網マッチを連想していただければいいと思います。要は逃げ場がないのです。

 しかし既存不適格である限りは合法な建築物なのですから、「大規模の修繕」や「大規模の模様替」とならない範囲の修繕によって、建物を延命させることができるのです。

古い建築物は一度解体すると、それまでの歴史が消滅してしまいます。法律をうまく活用して可能な限り原風景を残したていただきたいと思います。